第1話:謎の転校生
目次
オニねむ〜
ジリリリリリリリリリリリリリ――――!!!
けたたましいアラーム音が、鬼倉家全体に鳴り響く。 布団の中で丸まっていた少女が、ツノをピコッと伸ばしてアラームを一撃。ピッと音が止まる。
「オニねむ〜……あと5分だけ……」

(申し遅れましたが、私の名前は鬼倉 凛〈おにくら・りん〉。みんなからは“オニリン”って呼ばれてるよ。鬼族の血を引いてるけど、いまは人間界でふつう(?)の女子高校生やってまぁ~す。JK鬼のオニリンだよー。よろしくね♡)
そのまま、ぬくぬくと布団にくるまってまどろんでいた――その時だった。
もぞっ。
なにかが布団に滑り込んでくる。
「あれ……ももぉ?」

ちっちゃな手足。ぷにぷにほっぺ。ちょこんとしたツノ。 鬼倉家の末っ子――ベビオニこと、鬼倉ももが、満面の笑みで「おにゅ〜♪」と笑う。
「んん~、もも〜。オニかわいい〜。オニ大好きぃ〜♡」
とろけそうな声でスリスリしながらギュっと抱きしめた、その瞬間――
ぷぅん……と何かが臭った。
「……ん?……なに?……うわっ、くさぁっっ!!」
「もぉー、オニくさいじゃん、もも。やったねぇ~!!!」
布団をバサァッとめくって飛び起きるオニリン。
「オニィ~~っ!! オニィちゃーんっ! ちょっとぉ〜、もものオシメ替えに来てぇ〜〜!!」
手にオシメを持って、現れたのは、兄――鬼倉 健(けん)。 無言でオニリンにオシメを差し出す。
オニリンが叫ぶ。 「お前がやれやぁ!」
健がボソッと言う。 「オニ、不器用なんで…」

オニリン「もぉ〜!あたし遅刻しちゃうじゃん!!」
結局、オニリンが自分でおしめ替えに取りかかる。
(……というか、毎朝このパターン。いつになったら平和な朝が来るんだろう)
「よしっ!オシメ替え完了!」
ももにちゅっとおでこキスをしてから制服に着替え始める。
着替えながらツノで髪をとかし、同時に靴下を履き、カバンを背中にセット。
階段を駆け下りながら、叫ぶ。 「よしっ!鬼爆速モード、発動っ!!」
鬼爆速モード全開!全力通学!
オニリンは階段を駆け下り、玄関に飛び出す。仁王立ちで待ち構えていたのは――おばあちゃん。
おばあちゃん「待ちなさい凛。これを持っていきなさい」
差し出されたのは、ほかほかの包み。
おばあちゃん「オニギリじゃ。今日は梅干し入りじゃぞ」
オニリン「おばあちゃんありがとうっ!!マジ助かる〜〜っ!!」
靴を履いてドアを開けると、後ろから小さな手がヒョコッと伸びてくる。
もも「りんちゃーん。ばいばーい」
オニリン「もも、今日もありがと〜♡ 帰ったらギュ〜の刑なっ!」
外に出ると近所の小学生たちがすでに登校中。ランドセルを背負ってチラチラ後ろを気にしている。
小学生A「来るぞ……。」
小学生B「来た、来た。来たぁー!オニリンだぁー!」
ビューンッ!!風を切る音とともに、オニリンが小学生を颯爽と追い越していく。

小学生A、B「オニはやっ!!」
バタン!!!
勢いよく教室のドアを開け、滑り込む!そして、ビシッと手を広げてこう叫ぶ!
オニリン「オニギリっ!!……セーフ!!」

どや顔のまま椅子に腰を沈める。
オニリン「いやぁ〜、あっぶねぇ〜。マジでギリだったわ……」
教室が、微妙な沈黙に包まれていた。
あいつがやって来た・・・。
教室。朝のHR前。オニリンが席につくと、
ユキ「オニリン、おっはよぉ〜!」
ミミ「マジ、オニギリだったね。間に合っててオニウケるぅ〜」
ユキ「しかも、オニギリ片手にポーズ決めてたし!マジで伝説更新してるよ〜」
オニリン「やめてぇ〜〜!そこまで実況しないで〜っ!」

隣にはいつもの男子・猿渡太郎(通称:オニ太郎)がいる。

オニ太郎「おはよ、オニリンちゃん!今日もツノ見えてるよ!(ニヤ)」
オニリン「やめろっ!このオニドスケベ!このオニエロ変態野郎がぁ!!」
ガラガラガラー。
教室の扉が開き、先生に連れられて一人の男子生徒が入って来た。
先生「今日からこのクラスに転校してくる桃神くんだ。みんな仲良くするように。」
斗真「桃神斗真(ももがみ・とうま)です。みなさん、よろしくお願いします。」

女子たちがざわつく。オニリン、目を奪われてポーッとする。
オニ太郎「おーい、オニリンちゃん?なに?なんか、オニポカンてなってんで?」
オニリン「うるさいわッ!……(なにあの爽やかさ、ズルくない?)」
(桃神 斗真……彼の名前を聞いた瞬間、なぜか胸がドクンと鳴った。初めて会った気がしない。でも、思い出せない。この感じ……何!?)
先生「席はあそこの空いてるところだ。何か困ったことがあれば、隣の鬼倉に聞いてくれ。鬼倉、よろしくな。」
オニリン「えっ!えー、私!?」
オニリンがビクッと反応し、周りからクスクスと笑いが漏れる。
転校生の正体?
授業中。先生が板書している中、オニリンはうわの空で斗真をチラチラ見ている。
(さっきから気になる……。名前を聞いた瞬間から、胸の奥がざわついてる。なんで?どこかで……会った?)
斗真が突然オニリンに話しかけた。
斗真「あの、鬼倉さん。」
オニリン「えっ!あっ。は、はい。な、なに?どうしたの?」
斗真「えっと、あのー、消しゴム忘れちゃって、ちょっと貸してもらえると助かるんだけど。」
オニリン「いいよ、いいよ。全然。全然。何なら、半分あげるよ。」
と言いながら、消しゴムを半分に割り、斗真に渡すオニリン。
斗真「あっ、いやぁー。ごめんね。ホントありがとう。助かるよ。今度、何かお礼するね。」
それを見ていたオニ太郎は不機嫌顔。
(なんだよ、あいつ!いきなりオニリンになれなれしくしやがって!オニムカつく!)
斗真は真面目にノートを取りながら、窓の外をふと見つめる。
その瞬間、風が吹いて教室のカーテンがふわっと揺れる。
(あの横顔……なんか……懐かしい……気がする)
(夢で何度も見た風景……あれ、誰だったっけ……)

ふと、現実に戻る。無意識に小さく声が漏れた。
オニリン「……とうま?」
チャイムが鳴る。昼休み。
ユキ「オニリン、どしたの?ボーッとして」
オニリン「え?あっ、いや、なんでも……ないよ」
(なんでも、ある……気がするんだけど……)
そのとき―― 「キィ……」という、かすかな鳥の鳴き声が教室の外から聞こえた。
オニリンが窓の方に目をやると、 一羽の鳥が空を横切っていくのが見えた。
(……今のって、なに……?)

斗真がぼーっと一点を見つめているのが見えた。
斗真「……りん?」
オニリン「えっ?」

To Be Continued…